<aside> 💡 目次
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学習目標 | 優 | ボーダーライン | 不可 |
---|---|---|---|
初診患者、新たな問題が生じた患者において、考え得る最善の臨床推論が行われているにもかかわらず、 | |||
診断が付かない、方針が決まらないなどの不確実さを受け容れつつ、継続的に診療できる。 | 問題の本質が明確でない患者に対し、診断がつかない、方針が決まらない不確実性を受け容れつつ、継 | ||
続的に診療することで、患者がある程度満足出来るケアにつなげている。 | 問題の本質が明確でない患者に対し、診断がつかない、方針が決まらない不確実性を受け容れつつ、継続的に診療することでケアにつなげている。 | 問題の本質が明確でない患者に対 | |
し、不確実性を受け容れられていな | |||
い、または一方的なケアになっているなどの問題が見られる。 |
一般的な臨床推論は、訴えを『医学的主訴』に変換して始まる
プライマリ・ケアでは、仮説演繹的モデルや閾値アプローチが難しい訴えに溢れている。具体的な例を用いて特徴を考えてみよう。
【症例】Aさんは,糖尿病,小脳梗塞(アスピリン内服中),完全房室ブロック(ペースメーカー留置), 認知症(長谷川式認知症スケール16点)の既往がある76歳女性.受診日の朝、デイサービスで血圧の低下(86/57mmHg)と顔色の不良 、活気のなさがあり職員に連れられて診療所を受診した。受診時は、Vital signの異常なく、いつもより少し顔が青白い印象であった。本人は『いつもと変わらない』と答えた。身体診察では口腔内乾燥等の脱水所見が見られたがその他はいつもと変わりは無かった。
『いつもと、なにか違う高齢者』というプライマリ・ケアでは頻繁に相談がある症例の一つである。この症例で仮説演繹法的モデル/閾値アプローチを用いる場合は『主訴』を何に設定すればよいだろうか?最も『血圧低下』という主訴を設定するとこの先には、ショックの鑑別やFever Work upのため身体診察や検査(エコー・採血・心電図検査など)が行われることになる。
【症例のつづき】採血でも脱水所見に矛盾しない所見があり、Hypo Volemiaに伴う一過性の血圧低下と『診断』し、補液療法を行われ自宅に帰宅した。しかし帰宅後も活気のなさが持続しており、1週間後再度外来を受診した。4日後、活気のなさを指摘されて再度受診した。
これもまた、プライマリ・ケアではよく見られる光景であり『問題の本質をとらえられていないような、、』そんな感覚に囚われる。どうして『問題の本質』を捉えられなかったのかのヒントは『プライマリ・ケアにおける臨床問題の特徴』にある。
プライマリ・ケアで出会う臨床問題の特徴は、一言でいうと『未分化な状態であること』でる。『未分化な状態』とは、言い換えると『ぼやっとした、はっきりしない状態』でありどうして『はっきりしない』かについて主に2つの理由がある
“医学的主訴“に変換してしまえば、見通しが立ちやすくなり医師としてはマネジメントが楽になる。一方で、未分化な状態では、問題が表在化していないことも多く、本当の問題から逸れた臨床推論を行ってしまうことになりかねない。また、早期に”主訴“を決めてしまうことは、患者の態度も変えてしまうことになる。主訴を決めることで医師はClosed Question(いつから?どこが痛い?どのように痛い?など)を繰り返すことになり、患者は受動的な姿勢に切り替わる。そして、医師の問診に関連した内容のみ答えるようになってしまい(また、医師側も、はっきりしない訴え・患者の感情や期待・病い体験の語りなどの”微妙な手がかり”はノイズとして捉えてしまい)、患者からは新しい問題が提起されにくくなり本当の問題が埋もれてしまうことになりかねない。
また未分化健康問題という、発症初期の状態における難しさとして以下の様なものがある
<aside> 💡 発症初期の段階の臨床推論の難しさ
これらの臨床推論における難しさも踏まえ、主訴に変換しにくい訴えは、未分化な健康問題として捉え“主訴を最初に決めないアプローチ”を要する。本稿では未分化な健康問題どの様に取り組んでいくかについて論じていく。
未分化な健康問題に対処する4個のコンポーネントを紹介する。
「医学は不確実性の科学であり、確率の芸術である」オスラー
「医学における不確実性は、医学的知識の限界、個人的知識の限界、そして両者を区別する難しさから来るものである」フォックス
- 不確実性への不寛容が、医師のストレス増大、燃え尽き、仕事への満足度の低下につながる
- 医療の不確実性に対処するための指導戦略には、直感と論理を統合すること、不確実性を認めること、不確実性を受け入れる文化を育てることなどが含まれる。
Hallやベレスフォードは不確実性の原因として技術的、個人的(人的)、概念的の3つを挙げた
技術的不確実性 | 人的不確実性 | 概念的不確実性 | |
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定義 | 科学的データ不足や不完全性から生じる不確実性 | 医師-患者関係から生じる不確実性 | データを実際の状況に適用する際の困難さから生じる不確実性 |
要因 | ・予後や治療効果を適切に予測する情報不足 | ||
・臨床医の医学知識不足 | • 患者の意思や解釈、病い体験が十分理解できていない | ||
・不十分な医師患者関係 | ・症状や兆候、診断が不明確である | ||
・エビデンスの適応に倫理的ジレンマがある | |||
対応 | エビデンスを調べたり、同僚や指導医に相談する | 患者と対話を重ねる | |
現在の状況が『なぜいつもと違うのか』を多職種で話し合い、振り返る | |||
技術的不確実性は、Evidenceを調べたり、同僚や指導医に相談することで解決することがある。人的不確実性は、患者さんと対話を重ねることで対処していく。また技術的・人的不確実性は後述の帰納的採集で『真の問題』を探っていくことで対処することができる。
概念的不確実性は対処が難しいが、現在の状況が『なぜいつもと違うのか』を多職種で話し合うことでヒントが見つかるかもしれない。
不確実性をマッピングし対処する【参考文献:Mapping Uncertainty in medicine】
不確実性を抱える際には、不確実な状況であることを患者・家族と共有する必要がある。不確実性への説明においては「可能性ではなく蓋然性で説明する」。可能性はあるかないかしか言えないが、蓋然性で説明する。つまりどの程度の見積かまでを根拠も含めて共有していくことが重要。その上で、問題を設定し、ゴール設定する。(PCCMのコンポーネント3の部分)
- 診断の定義を明確にして、症状や兆候と疾患の関連を説明する
- 患者が懸念する鑑別診断を再考、除外する
- 今後の可能性のある経過と必要な治療を説明する
- 共通の理解基盤の形成を試みて、治療プランを交渉する
- 症状の変化や新規の症状が出た場合には速やかに鑑別診断を行うことを強調する
- 症状や兆候の変化を評価するためにフォローアップを設定する
- 緊急処置を要する状況を想定し、対処法を相談する