【過剰処方への処方箋】

今回は、British Journal of General Practiceに掲載された「Medicines and society: systemic change needed to address overprescribing」という論文について、家庭医の視点からポイントを整理してご紹介します。処方薬に関するシステム的な課題と解決策を考察した重要な論文です。

パート1:X投稿用要約

【処方の連鎖を断つ】 薬物治療が全ての解決策ではない。過剰処方は医師個人の問題ではなく、社会的・システム的課題。数値リテラシー強化で絶対リスク減少を説明し、健康の社会的決定要因に目を向け、診療時間を増やして物語医療を実践する社会的処方の推進が必要。 https://bjgp.org/content/75/756/325.full

パート2:臨床テンションを抽出

手順1:キーとなる概念

この論文のキーとなる概念は「過剰処方は個人の問題ではなく、システム的問題である」という視点です。処方行動を医師個人の責任や能力の問題として捉えるのではなく、医療文化、教育システム、社会的影響、製薬業界の影響、医療システムの構造など、より広範なシステム的要因によって引き起こされていると捉えています。

手順2:主要な「臨床テンション」

主要な臨床テンションは「何かをしなければならない欲求」と「過剰医療化を避ける責務」の間の葛藤です。論文では、医師が「何かをする」という介入志向の考え方と、過剰医療化による害を避けるという責務の間で葛藤が生じていることが示されています。患者の問題に対して薬を処方することは簡単であり、患者も何らかの対応を期待しているため、何もしないという選択は難しい状況があります。

手順3:統合的考察

この臨床テンションを統合するには、「薬を処方する」か「何もしない」かという二択ではなく、「別の形で何かをする」という第三の道を模索することが重要です。具体的には:

  1. 患者の話をじっくり聴き、経験を認め、共感する時間を確保すること自体が治療的である
  2. 社会的処方(コミュニティ活動への参加、運動プログラム等)の選択肢を増やす
  3. 薬剤の絶対リスク減少など、わかりやすい形で患者に情報提供し、共同意思決定を促進する
  4. 健康の社会的決定要因(住居、経済状況、人間関係など)に目を向け、医療的介入以外のアプローチを検討する

これらの方法により、「何もしない」のではなく、「薬以外の方法で介入する」という選択肢を増やすことができます。医師は介入する欲求を満たしつつも、過剰処方による害を避けることができるのです。

パート3:明日からの臨床に活かすポイント